New Release

記録41号

森山大道

$28.21 (税込)

6月21日(金)までのご精算で、特別価格2,419円(税込)にてご用意致します。
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それはそれとして、ぼくはここ十年近く映画館に入ったことがない。
べつに映画嫌いということでもないのだが、そうなってしまった。それに、テレビでもDVDでも飛行機でもそうなのだ。我ながらいぶかしい。
若い頃はそれでも、なんだかんだと結構映画館のシートに座ってスクリーンに惹かれていたのだったのに。
つまりその頃、中平卓馬はゴダールだったし、ぼくはフェリーニだった。どちらかが誘うかたちでよく二人で観にも行っていた。それにしても、なぜこうも、映画館から、映画から、こうも遠く離れてしまったのか、自分でもよく分らない。
ところで先日、ぼくはある人から「あなたが好きなこの一本ていう映画は何ですか」と尋かれて、ぼくはしばしとまどってしまった。それはぼくだって日本映画の2~3本や外国映画の2~3本くらい記憶に残る映画はあるわけだが、質問のニュアンスと微妙に違う気がして考えこんでしまったわけだ。そして、ややしばし思い惑ったうえで、ふと脳裏に浮上してきたのがデビット・リンチの『イレイザーヘッド』だった。
つまり、ぼくにとって映画とはこの一本だった。
もう遠の昔に観たものでストーリーやディティールなど判然としないのだが、とにかく「暗かった」。スクリーンに映る光も影も何もかもが暗かったという記憶しかなかった。あそこまでエタイの知れない「暗がり」は、もうぼくの臓腑の底のシミとなって消えることがない。そしてぼくは、その一本の映画をもう二度と観ることはないと思う。

ただ、その一本の映画の存在と、ぼくが長い間映画を観なくなってしまったこととは、別に何の関係もない。
きっと、日々経年、都会の街区や路地に入れこみかまけすぎて、中毒症状となったあげく、さまざまな他のキャパシティが消失しつつあるのではないか。

-森山大道 後書きより一部抜粋