好評発売中 | HAJIME SAWATARI "Simon, The Actor"

ニューリリース
ginza

写真機というものは人間であることをせっかく忘れそうになっている動物をふっとわれに帰らせるふうな罪なさまし方を持っている。どんなに親しく解け合っている人物でも、相手がそれらしい箱をぶらぶらさせていることがわかったりすると、西部劇での居酒屋の空気のようにお互いにちょっと白けることがある。撮る方も撮られる側も借りてきた猫のようになること自体が、写真術の醍醐味(だいごみ)であり、妖気(ようき)でもあるのだろう。パスカルは「猫が鼠をみるだけでも理性を狂わすには十分だ」と言っているが、写真機というのはいまだに人間を身構えさせる飛道具型のシェパード犬なのかもしれない。
 決定的瞬間をわざわざブラしたりする新工夫もあるくらいだから、写真術の世界には例外の現実が栄えている。気鋭の写真家の沢渡朔が裸の四谷シモンを撮ったのを見たが、これがまた失われつつあるカメラ・オブスキュラのマニエリスムをにわかに復活したような例外中の傑作である。四谷シモンには、どこかにいまなおフォンテーヌブロー派の絵から抜け出してきたばかりの風情を羽織っているところがあるのだが、これをダゲレオタイプばりの気品でさらっと裸にして見せた沢渡朔という写真家は油断のならない暗黒のチャンスメーカーである。

加藤郁乎(詩人) -アンファン・テリブルな写真家と役者- 後書より抜粋 

 

Hajime Sawatari "Simon, The Actor" (AKIO NAGASAWA PUBLISHING)
2016/限定600部/サイン&ナンバー入/29×22×3.8cm /ハードカバー/19.440円(税込)